<<<<<<<< 左大臣助平(スケヒラ)の悩み 「厩橋のオマタセンベイ」>>>>>>>>
前橋は三俣の地に昔よりせんべいを商う店あり。その店「三俣煎餅」の名で諸人の知るところである。
ところが厩橋のオマタセンベイなるものがあること、意外に知られてはいないようである。
聞くところによると、(壺振りの万なる縛連の申すこと故、あまり確かなる情報とは云い難い面は否めないが)其処にはオマタ観音という等身大の少々色っぽい観音様が祀ってあり、賽銭を入れると、たちどころにそのオマタより、えもいえぬ香しきセンベイがポトリと落ちるそうな。
このセンベイ、欲しくて仕方がないが何となく恥ずかしく、お参りに行くに行けぬヘンな坊様あり。彼の男、名を深之沢庵と云い、実は欲深寺(ホッシンジ)という荒寺の住職である。
爺や: 助平さま、欲深寺の和尚様がお見えでございます。
助平: ナニ!和尚が来たとな、そりゃいかん。直ちに食い物を隠すがよい。
爺や: (アタフタ・アタフタ)これなる饅頭は如何致しましょうか? 隠す所が見つかりませぬ。…慌てて1つ口に放り込んだはよいが、忽ちむせかえり、目を白黒。
助平: 何を致しておる、間に合わぬではないか。饅頭なぞは婆やの胸にでも貼り付けておくがよい。
…爺や、言われるがまま、傍らに控えし婆やのペラペラなる胸押し広げ、饅頭放り込むも、すかさず婆やの平手打ち。
助平: これは和尚、久方振り。相変わらずの食いしん坊主で何よりでありますな。
和尚: 助平殿も相変わらずのトボケ面、誠に板について結構・結構・平和で結構。
助平: 近頃 和尚は饅頭のみならず人も喰うとか! げに羨ましくも恐ろしや。
和尚: いやいや 左様に不味いものは食わぬ。拙僧 近頃せんべいに凝っておるのではあるが…ウ−、そのう、オマタセンベイなる物、食してみたことはあるまいかの。
ナニナニ無いとな、そりゃいかん。あれを食さねば人間一人前とは言い難い。マ、助平殿が一人前となるには随分と食さねばならぬであろうが。ウンウン、そうじゃ、拙僧が連れて行って進ぜよう。ササ、参られよ。
…助平、ナニやら訳分らぬままに連れ出され、和尚にそそのかされ、有り金はたいて賽銭投げ続け。
和尚はその間これ以上下がりようの無き程垂れきった目尻と鼻の下なぞ一向に構うことなく、観音様のマタに手え突っ込み、出てくるセンベイ、片っ端から懐に仕舞い込みつつ、「ナンマンダブ・ナンマンダブ」。・・・・・深野沢庵
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