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<<<<<< 正しい日本の風景 >>>>>>

 助平(スケヒラ)の所属するロータリークラブのメンバーに欲深変治さんという、ほんの少々変人の部類に属するお方あり。彼のお方、普段ロクなことしていない罪滅ぼしにと、時折出張に奥方をご同伴なさるとかいう話。助平うっかり奥方に洩らしてしまったのが運の尽き。

 「助平殿こそロクなことしていない代表格ではありませぬか、早速私をロマンの旅路に誘う(いざなう)べし。」と言われてしまい、信濃の旅にご同行願うハメになり。

 「当たり前の道を通ってはいけませぬ、素敵な景色の良い道のみ通行を許可します。」と言われ、即座にそのルート、頭の中で組立てる彼のクダラヌ能力に、自分自身に呆れ顔。

 当日、軽井沢という当たり前のルートを避け、下仁田から内山越えでコスモス街道へ。それは見事なるコスモスの中走り抜け、佐久の市街を迂回して田園風景の中、小諸へと。

 当然、小諸の街を避け、広域農道にて千曲川の南を一気に丘陵地を登り切ると、そこは御牧ケ原の高原農村地帯。視界遮るものは何もなし。人っ子1人居ない見事な道路が延々と東西に横たわるのみ。

 北には浅間山が「どうだ」と言いつつ、悠然とふんぞり返り。南を見れば、八ヶ岳がそれはバカでかいスケールで「威張るな小僧」とばかり平然と構えている姿に、奥方感激。

 他に行き交う人や車、犬や猫、凡そ視界に映るもの、全くもって見当たらず。助平も流石に何故、斯様な所にこのような素晴らしき道路があるのか、不思議でならぬ様子。

 奥方殿、そんなことにはお構いなし、車窓に映る360度から飛び込む高原のパノラマにただゝうっとり無我夢中。

 と、右手に昔ながらの一軒の農家あり。北と西には屋根まで届く樫のクネ、母屋の前庭、西寄りにはバラック、東の隅にはやや右寄りに傾いた外便所。そして庭にはニワトリが2羽3羽放し飼い。

 突然奥方「これよ、これぞマコトの正しい日本の風景です。助平殿が腰に手拭、麦わら帽子であの庭に立ってごらんなさい。それは素晴らしい絵になります。あの農家、是非買うべきです。」

 「しかしながら奧よ、ここに来るまで店が一軒も見当たらぬではないか。隣の家も見えぬが。それでもよいのか。」

 「何を言われます、助平殿、あなたが一人でここに住むのでございます、アタシャ計算に入っておりませぬ。」

 最近では、どうやらこれが正しい日本の夫婦の風景なんだそうな。

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