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<<<<<< 左大臣助平(スケヒラ)の悩み「恥さらし」 >>>>>>
上州は銅(あかがね)街道より二里程東寄り、足尾からの山並の途切れた低山を背に、嘗て織物で栄えたという、古きそこそこ由緒ある街中にて、かれこれ三十年程庶民活動なるものに励んでおる男あり。
その男、顔に似合わず意外とマメなところがあり、街中のお年寄りや、身体機能に多少不都合ある者達には、何かと慕われておるようである。
彼の名を宮痔というが、その字体を目にすると、初対面の者は一瞬冗談であろうかと思うようであるが、その言葉が当て嵌まるのは顔だけであり、やっておることは、存外まともであるようだ。
しかしながら、彼が永年いぼ痔に苦しんでおることは、紛れもない事実ではある。
彼は織物とは縁もゆかりもない、和菓子作りを生業としており、早朝より作業場に立つ彼の姿が、時折界隈の者達の目に留まるようである。
昔より菓子屋の倅は菓子嫌いとよく言われるが、彼に限って言えば、その言葉はほとんど通用しないようだ。
要するに酒と甘いものには目がないのであり、それがかえって家業を栄えさせている要因でもあるようだ。
彼曰く「吾、酒に呑まれること、いとた易きことなれど、女に溺れるほど愚かに非ず。」と胸張るが、周囲の者達に言わせれば、単にモテヌだけのことらしい。
助平、時折彼の男と一献交わしつつ猥談に花咲かせる仲であるようだが、酒量においては、はなから敵うべくもない。
助平が一升瓶を持つと、瓶の存在が際立って見えるが、彼の男が持つと小ぶりの大根ぶら下げた程度にしか見えないのが、助平何となく面白くない。
オカマに化けたナメクジに、抱きつかれたかの如きネバ苦しい暑さも、彼岸を過ぎると、俄かに朝晩涼風が頬を撫で、コオロギ達が威張りだす。
鈴虫の品の良い、やや遠慮がちな声が、耳に優しく響く日暮れ時、マンジュシャゲの匂いを微かに含んだ、風に交わる川島英五の歌声。途端に宮痔ソワソワ落ち着かず。
小粋な飲み屋にて、割烹着を極自然にはおった、それは優しい、小股の切れ上がった女将の差し出す熱燗の温もり。
何故か二昔程前の飲み屋の風景、勝手に想像し気分高揚。
やがて居ても立っても居られず、当然の成り行きの如く助平呼び出され、結局無理矢理宮痔に腕引っ張られつつ、夜の巷に連れ出され、少々時代遅れの淋しさ漂うネオン街へと繰り出す破目に。
(以下次号)
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