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余之助余禄 「クワガタムシのこと」
夏の余韻が未だ尾を引く余之助にて
常連の口は達者で手は遅いが、年に似合わず、意外と足腰しゃきっとした連中もやっと引け、ほっとした空間を取り戻したる余之助の午後3時。
助平(スケヒラ)遅い昼食を摂ろうとしたところに、初老のご婦人、孫連れぶらりと現われ、最近流行りの麹化粧水などを求めつつ、小物などあれこれ物色。
やがてテーブルに着くや、コーヒー・ラムネにケーキ等注文。その最中、しきりと孫の「コラ、サブロー、ダメじゃないか。もっとお行儀良くしなさい。」などと言う声。
その都度、助平「ハッ?」。よくよく見れば、孫の手の中では大きなクワガタ虫が1匹ウロチョロノソノソ。当のクワガタ隙あらば逃げようと必死の様子。
助平、よせばいいのについつい「ボク、そのクワガタひょっとして名前付いてんの?」。と聞けば、「うん、これとってもバカだけど可愛いんだよ。名前はね、クワガタ サブローって言うんだ」。
途端、助平苦笑いのまま下を向き、うな垂れたままスゴスゴとその場を後に。
実は助平の本名を桑原三郎ということを知っている者、界隈にはほとんど居ないということを、思い知らされた日であった。
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