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左大臣助平(スケヒラ)の悩み 「ネコふんじゃった」

  時代を少々遡り、かれこれ半世紀程前であったろうか、昭和の良き時代、巷で『ねこふんじゃった』という歌が大層流行った。

今でも何かの拍子に時折耳にすることがあるが、実は昔の猫は、それなりの得意技があり、ネズミや小ヘビ等を捕ってきては自慢げに、家人に見せびらかしたものである。従ってそう易々と人に踏まれるほどノロマではなかった。むしろ呆れるほどすばしっこい。彼らの食事と言えば、削り節をまぶしたご飯であり、稀に汁のダシに使った煮干しが付けば上等であった。

 現代では猫は家の中で飼うのが当たり前になり、飼うというのではなく、家族の一員という立派な地位を与えられているようだ。

食事は勿論のこと健康にも充分気を遣われ、主治医も当然存在する。最早彼等には生きてゆく上での厳しい試練は全くない。何の心配もなく、日々のんびり平安。

当然のことながら、猫本来の狩猟本能や、危険から身を守る術は薄れてしまう。

 助平家の雌猫達、チビトラの「すみれ」とダボ三毛の「あやめ」も、勿論例外ではない。彼女達にへんな虫がついてはよろしくないと、奥が心配し避妊手術を施してもらってから、夫々のお腹が無様に垂れ下がり、特に「あやめ」には、いわゆる猫らしいスマートさはとてもじゃないが感じられない。

家の南面廊下の日溜りで、日がな一日昼寝三昧。夜ともなれば、夕食後の団らんのひと時に、猫用おもちゃを奥や助平の元にくわえて来て、遊べ遊べとさかんにせがむ。

助平達は仕方なく程々に遊びに付き合ってやるが、その後猫達は好き勝手におもちゃ遊びや追いかけっこで家中ドタバタ走り回って騒がしい。

 猫達は孤独は苦手とみえ、夫々が、夜は一緒に寝たがる。何故か、「あやめ」は助平、「すみれ」は奥の布団と、それぞれ領分が決まっており、夜中に二人が寝静まった頃合いを見計らったかの如く忍び寄り、布団の上に乗って来るのである。また奴等は寒さも苦手とみえ、冬ともなれば布団の中に入ってくる。

「あやめ」は、助平がだらしなく口を開き、イビキの真っ最中に、助平の顔に鼻息をふっかけ、助平を目覚めさせ、布団に入れろとせがむのである。仕方なく布団に隙間を作ってやると、おもむろに彼の肩口より潜り込み、選りによって腹の上を乗り越えるや、なんと股の間に陣取り、当然の如く大の字になり、軽いイビキをかきつつ、寝入ってしまうのである。

「あやめ」のイビキは助平の股の間だから、さほど耳障りではないが、なにせ身動き出来ず、寝返りが打てない状態というのは、あまりよろしくないであろうが、可愛さに負け、やせ我慢とか。

しかし「すみれ」は奥の首と肩の間に陣取り、暫し彼女の腕の付け根あたりをモミモミしたる後、肩を枕に眠りにつくのが、通常のパターンなのだそうだ。

しかもチビトラはイビキのみならず、寝言までつぶやくというから呆れる。

 不思議なもので、かような生活が続いていると、それが当たり前のライフスタイルになってしまうもので、猫達が布団に潜り込んで来ないと、二人とも何となく調子が狂って、あまりよく眠れないようである。

 狂ったような訳分らん天気に誘われ、次から次へと台風が通り過ぎ、呆れ返って空仰ぐ。ふと気付けば、時折聞こえる鈴虫の声の中、日毎に色づいてくる紅葉に、季節は最早晩秋。

 新聞配達の砂利を踏みしめる足音と共に、東の空にほのかな明るさの兆しが感じられる頃、「あやめ」が起きだし、助平達にも起きろ起きろと、ニャーニャー鳴きつつ、部屋中ウロチョロ動き回る。

そんな何時もの日の出前、助平寝ぼけ眼で小用に立ち上がり、ふらふらと厠に向かって歩き出した途端、「あやめ」の尻尾をうっかり踏んでしまった。

途端に彼女は万歳フォームで五尺程(約1.5メートル)も飛び上がり、哀しいかな今時の猫である彼女は、ドスンと背中から落ちてしまい、一目散に納戸に飛び込みそれっきり出てこない。助平「こりゃすまぬ事をしたな」と言いつつ彼女を引っ張り出して、おやつを与えてなだめてみるが、機嫌は甚だよろしくないようだ。

 その晩、夕食後の団欒の一時、ストーブの前で2匹仲良くくっ付き合ってグウスカ。実に心地良さそうな寝顔を奥が見つめていると、突然「あやめ」が「ヒ・ヒ・ヒ・ヒ・ヒ…ン」と、妙な寝言をつぶやいた。

何やら怖い夢でも見ているのかと、奥が「おまえどうしたの」と声を掛ければ、ボケ〜と顔を上げ、「アア〜ン」。

猫が斯様な声を発するとは、今時の猫の脳みそは一体どうなっておるのか、と助平、奥と顔を見合わせ互いに口あんぐり。

「呆れたものだが、余程怖い夢でも見たのであろうか。」と助平つぶやいたが、

矢張り思い当たるは、助平に尻尾を踏まれたショックが尾を引いていたような。

こんなザマでは奴等が本物のネズミや蛇に出会ったら、果たしてどれ程驚き逃げ回るであろうか、と少々心配顔の助平だが、「本来の姿を失ったのは猫に限ったことではありませぬ。今の世は犬も人も皆そうではありませぬか。人間らしさ、ことに男らしさは何処へやら…」と奥の溜息。助平も言われてみれば何となく納得。勿論返す言葉は見当たらず。







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