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「今は昔のビー玉遊び」

 

昭和の30年代はドラマでも有名になった、あの下町の町内の助け合いの絆が極当たり前の時代であり、その頃の助平はイタズラ盛りのガキだった。

ある晩秋の日暮れ時、隣のおばさんは夕餉の支度で、外の七輪で団扇片手にサンマを焼いていた。

焼いた煙が立ち上り、見渡せば同じように近所でも、魚焼く煙があちこちに漂っていた。当時はどの家でも換気扇などなかった故、焼き魚などは七輪を外に持ち出し、団扇でバタバタ扇ぎながら魚を焼いたものである。

 助平は七輪のそばで煙にむせびつつ、ビー玉遊びをしていたが、ふとこれを鼻メドに入れられるかなと思い、軽い気持ちで鼻メドに突っ込んでみた。ビー玉入れたら鼻が大きく膨らみ、恐らく鬼のような顔になり、隣のおばさんはきっとびっくらこいて、腰抜かすだろうと悪巧み。

助平、にやにやしながら先ず1個を鼻メドに押し込んでみると、少々きついが何とか入り、大きく開いた鼻メドが、鬼の鼻に見えなくもない。
すかさずビー玉が外から見えないように、もう少し奥に押し込んだところ、入りすぎてしまい、慌てて元に戻そうとしたところ、アレレ・アレレと言う間もなく逆に更に奥に入り込んでしまった。

助平流石に青くなり、「オバサン助けて!ビー玉取れなくなっちゃった。」と泣きべそかきつつ鼻を指さす。

オバサンは助平の顔をマジマジと見るや
「あれま!やだよこの子は、鼻の頭が膨らんじまってるよ。まったくろくでもない事ばっかりやらかすんだから。」
と言いつつ助平の鼻を懸命にしごいてみるが、哀しいかなビー玉は更に奥に入り込んでしまった。

仕方なく下向かせ後頭部をひっぱたいてみたが、全く効果なし。

呆れ返って
「こりゃ駄目だ」とため息つきつつ、ダメ元で「片方の鼻メドを指で押さえて、鼻から思い切り息を吹いてみろ。」
言われ、助平ベソをかきつつフーンと思い切り息を吹きだしてみると、鼻汁と共にビー玉がポトンと地面に落ちた。

すかさずオバサンに拳固をくらい、「二度とこんなバカ遊びするんじゃないよ。」と大声で叱られ助平流石にションボリ。

 その後茹で上がったばかりのうどんを、お椀にたっぷりの汁に浮かせたものを、「さあ食べな」とひょいと出されると、たった今迄ベソをかいていたガキが、夢中でうどんに食いつく図。真に昭和の良き時代のひとこまであった。





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